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育毛業界でよく聞くようになった「キャピキシル」。ネット検索すると様々な記事がヒットします。「全く効果がない」「効果はミノキシジルの3倍」「副作用がないので安全」「所詮化粧品成分」等、キャピキシルの効果については賛否両論で本当の事が正しく伝わっていない、と感じます。
この記事ではキャピキシルについてデータと合わせて解説し、その効果的な使い方をご紹介いたします。
目次
1.ヘアサイクルの基礎知識
キャピキシルについて説明する前に、育毛をする上で重要になるヘアサイクルについて簡単に説明します。毛髪は日々成長と退行を繰り返しています。ブラッシングやシャンプーなどで1日に100本前後は自然と抜け落ちる毛がありますが、これは正常なヘアサイクルにおいて普通の現象です。
髪には寿命があるので、ある程度成長し続けた髪は自然と抜け落ちていきます。脱毛後、再び新しい髪が成長し、伸び続けたのち再び脱毛する。この一連の流れがヘアサイクル(毛周期)です。ヘアサイクルは、「成長期」「退行期」「休止期」の3つに分類されます。
〇「成長期」
毛髪の細胞分裂が活発に行われ、髪が太く長く伸びます。成長期は男性で3〜5年、女性は4〜6年続きます。
〇「退行期」
成長がストップし、細胞分裂のスピードが緩やかになります。退行期は2〜3週間ほど続き、抜け毛が増えやすい時期です。
〇「休止期」
毛根が新しい毛髪をつくるための準備を始め、2〜3ヶ月続きます。この期間に抜け毛が増えます。
ヘアサイクルが乱れていると、抜け毛や成長しきらずに抜けてしまう毛髪が増え、抜け毛の増加や薄毛の原因になります。ヘアサイクルを正常に整えることが育毛において重要です。
2.キャピキシルの働き
「キャピキシル」は、【アカツメクサ花エキス】と【アセチルテトラペプチド−3】からなる複合原料です。本当に効果があるものなら、「厚生労働省より有効成分に認定されるはず」との見解もあるのですが、有効成分のすべてが単一の成分です。キャピキシルが有効成分に認定されないのは複合原料だからという理由もあるのではないかと思います。
キャピキシルの効果効能については成分を開発した会社により、根拠のあるデータが開示されています。キャピキシルには以下の働きが期待できます。
〇髪の毛を抜けにくくする
細胞外マトリックス(通称ECM)を強化し髪の毛を抜けにくくします。髪の毛における細胞外マトリックス(ECM)とは細胞と細胞の隙間を埋める物質です。
ECMは以下の分子などで構成されています。
- ヒアルロン酸
- コラーゲン
- エラスチン
これらの成分は、髪の毛の健康や強度に影響を与えます。特にコラーゲンは髪のハリやコシに、エラスチンは髪の艶を保つ役割を果たします。またECMは細胞同士の接着や制御にも関与しています。
また、閉経後の女性においてECMの一部であるエクオールが毛髪の老化(薄毛、軟毛、白髪)の予防に効果があるとされています。
〇髪の成長を早める
髪の毛の成長サイクルにおいて重要な現象である毛包伸張は通常、成長期にある髪は1日に0.3~0.4㎜の速度で伸びます。キャピキシルはこの毛包伸張を促進し、髪の成長を早める効果があります。
「効果はミノキシジルの3倍」と言われているのは、この毛包の伸長効果がミノキシジルの約3倍あったためです。ミノキシジルの3倍髪が生えるということではないので注意しましょう。
〇ヘアサイクル(毛周期)を最適化する
キャピキシルは、【バルジ領域】という髪の健康には欠かせないと言われる毛髪の司令塔部分を活性化しヘアサイクルを最適化してくれる効果があります。バルジ領域は、毛包に存在する特定の領域で、CD34とCK15の二重陽性細胞が存在します。
これらの細胞は毛包上皮性幹細胞と毛乳頭細胞を生み出す役割を担っています。このバルジ領域と毛乳頭細胞の相互作用によって、毛包器官が周期的に再生されています。
3.キャピキシルの実験データ
毛は毛とそれを囲む組織である毛包から構成されています。毛は皮膚の表面に出ている部分を毛幹(体毛と呼ばれている部分)と皮膚の下の部分を毛根といいます。毛根全体を取り囲んでいる部分が毛包です。
上記に挙げたキャピキシルの効果を示す実験データをご紹介する前にデータの実験方法の説明をします。
〇実験方法「IN VITRO」「EX VIVO」
「IN VITRO」は、ラテン語で「ガラスの中で」という意味で、主に細胞を使った実験を指します。培養皿上で細胞を培養し、観察や薬剤の試験、遺伝子導入、細胞の変化の解析などが行われます。IN VITROの中でもキャピキシルの実験に用いられている※フィルポット法とはマイクフィルポットが開発した実験方法で培養器の中でも毛髪が生体と同じ成長をすることを証明しています。現在では開発当初より実験の精度が上がっているので世界中の企業や研究施設などで使われている実験方法です。
※参照論文DOI: 10.1111/j.1749-6632.1991.tb24386.x
DOI: 10.1242/jcs.97.3.463
「EX VIVO」は、生体の外で行う実験を指します。具体的には臓器や組織を生体外に取り出して臓器単体を対象とする実験です。EX VIVOは臓器や組織を直接扱うことで、生体内での現象を裏付けるために行います。
キャピキシルの実験は上記の信頼できる実験方法を用いています。
〇HFSC(毛包幹細胞)への働き
毛包幹細胞とは、バルジ領域や毛包内に存在する髪の成長に関与する細胞です。毛母細胞や各細胞組織に分化し新しい髪を生成する役割を果たすと同時に自己複製して毛包幹細胞の枯渇を防ぎます。毛母細胞は細胞分裂を繰り返すことで発毛、伸長していきます。
●実験1
成長期の毛包(49歳女性)を摘出し、1%のキャピキシルを7日間塗布した毛包と何も塗布しなかった毛包の比較実験データをご紹介します。(フィルポット法)
CD34(バルジ領域の細胞)、※CK19(サイトケラチン)を蛍光で観察※CK19(サイトケラチン)とはケラチンの一種で毛根に存在し、髪の成長や健康に関与しています。
- IGF-1(※HFSCの成熟・分化を誘導する卵胞の再生に関与する成長因子)の染色による観察
キャピキシルで処理された細胞が未処理の細胞に比べ活発にHFSCを生み出していることが分かります。HFSC(毛包幹細胞)は髪の成長に重要な役割を果たす細胞で枯渇すると毛包の再生が阻害され薄毛や脱毛に繋がる可能性があります。
〇17型コラーゲンの合成促進
17型コラーゲンはタンパク質の一種で毛包幹細胞の自己複製を助け、毛包幹細胞や色素幹細胞の維持に重要な役割があります。
年を重ねることで毛包幹細胞のDNAにダメージが蓄積してくると17型コラーゲンの分解が引き起こります。毛包幹細胞が自己複製を行ったり、新しい毛包細胞を生み出せずに皮膚の最外層である表皮角化細胞を生み出してしまい、やがて毛包が小さくなり、最終的にはフケや垢として脱落し毛包が消失してしまいます。
キャピキシルによる17型コラーゲン合成の評価実験のデータをご紹介いたします。(In vitro)
● 実験2
キャピキシル0.05%、0.1%、1%を24時間添加し17型コラーゲンを観察したところ、キャピキシルは17型コラーゲンの合成を活発に促し、1%濃度のキャピキシルでは何も与えていない場合と比べ約40%も多く17型コラーゲンを生成し、HFSC(毛包幹細胞)の固定力と再生を改善することがわかりました。
17型コラーゲンは直接的な塗布や経口摂取では体内で増えにくいとされていますが、現在研究が進められており将来的に薄毛や白髪を抑制する薬として実用化されるかもしれません。
参照論文:DOI:10.1038/s43587-021-00033-7
〇毛包細胞の活性化
キャピキシルは毛包幹細胞があるバルジ領域が活性化することにより毛髪の成長において重要な部分である毛球領域も活性化します。
●実験3
成長期の毛包(49歳女性)を1%キャピキシルで11日間処理した毛鞘領域と毛球領域を未処理のものとでの比較実験のデータです。
このデータからキャピキシルは細胞活動を刺激し、毛乳頭が大きくなっており最適な毛包包括性と毛髪形成を促すことが分かります。
〇ラミニンと7型コラーゲンの合成促進
キャピキシルは基底膜の主成分であるラミニンと7型コラーゲンの生成を刺激し、より良い毛包構造と毛髪の固定を促進します。
基底膜は動表皮と真皮が接している部位で見られ、以下の重要な役割を持っています。
①支持と接着
・基底膜は角層をつくりだす基底細胞や表皮幹細胞の足場になり、ターンオーバーをコントロールします。
・性質の異なる表皮と真皮を繋ぎとめる役割をもっています。
②通過と増殖
・細胞が基底膜を通過して成長する際に重要です。
・細胞の増殖や再生にも関与しています。
③シグナル伝達
・表皮、真皮間の物質(栄養、老廃物など)や情報のやりとりをコントロールします。
● 実験4
ヒト線維芽細胞培養(3型コラーゲン、ラミニン)
アセチルテトラペプチドー3を約0.016%キャピキシル溶液で3日間添加した後のラミニン、3型コラーゲン合成の観察したところ、3型コラーゲンは65%増加し、ラミニンは285%増加したとの実験データがこちらです。(In vitro)
また、キャピキシルは皮膚の構造を安定させる7型コラーゲンも回復させる効果もあり、この2つのデータからキャピキシルのペプチドはECM(細胞外マトリックス)のタンパク質の生成を刺激してより良い毛包構造と毛髪の固定を促進することが分かります。
〇DHTの抑制
脱毛や薄毛に強くかかわっているDHT(ジヒドトテストステロン)は男性ホルモンのテストテスロン(女性も分泌している)と5α-リダクターゼ という酵素が反応してできます。5αリダクターゼは1型と2型があり、脱毛の主な原因となるのは2型です。
下図の実験データではキャピキシルが2型の方をより抑制しているということが読み取れます。
●実験5
細胞をビオカニンA※および放射性テストステロンとともに培養したときの5αリダクターゼ活性の定量化したところ、ビオカニンAは5αリダクターゼの活性を低下させることを示した実験データです。
※ビオカニンA
アカツメクサ(キャピキシルを構成する成分)に含まれるイソフラボンの一種です。
キャピキシルは5α-リダクターゼ活性を強力に抑制することでDHTへの変換を阻止し、脱毛や薄毛を抑制することができます。
〇抗炎症効果
微細な炎症も脱毛の原因になりえますが、キャピキシルは炎症を誘発するサイトカインの生成を減少させます。
●実験6
炎症を誘導したヒト線維芽細胞を培養し、キャピキシル0.5%および1%を24時間添加した後のIL-8(インターロイキン-8)※産生を定量化したデータです。これのデータよりキャピキシルはサイトカインの生成を減少させることが読み取れます。
※IL-8インターロイキン-8(IL-8)は、白血球の移動を促す小さなタンパク質です。
炎症時に免疫応答を促進し免疫反応を調整する役割を持っています。
4.キャピキシルのスカルプ効果
キャピキシルは毛包幹細胞の減少を防ぎ、より良い毛包構造で毛包を大きくして毛髪の固定を促進し、脱毛や薄毛の原因である5α-リダクターゼを抑制します。
〇髪の成長サイクルの改善
キャピキシルは発毛サイクルを効果的に調整することによって成長期の毛髪を増やし、休止期の毛髪を減らします。
成長期にある毛髪が70%未満の男性脱毛症の男性29名(平均年齢46歳)を2グループに分け、15名は5%キャピキシルローションを塗布、もう一方はプラセボを夜に1回、20滴を4か月間塗布した実験データをご紹介します。
キャピキシルを塗布したグループは成長期の毛髪密度が増え、休止期の毛髪が減ったとの結果がでました。キャピキシルはヘアサイクルを最適化し抜け毛を制限する効果が期待できます。
・サイクルが改善したことで視覚的な毛髪密度の増加
また、毛髪密度がアップしたことにより見た目にも変化が現れました。
5.キャピキシルの効果の出づらい人
〇血行不良
頭部の血行不良が原因で効果が出にくいことがあります。マッサージやミノキシジルとの併用が有効です。
〇毛母細胞が消滅している
薄くなっている部分の皮膚の色が変わっている場合や、髪が生えてこなくなってから 5年以上経っている場合はキャピキシルの効果は期待できません。
〇ホルモンバランスが乱れている
ホルモンバランスと脱毛には密接な関係があります。特に女性の脱毛において、ホルモンの影響は重要な要素です。顕著な例として、産後脱毛は、妊娠中に増えたエストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で妊娠中にヘアサイクル(成長期)が延長されるため、本来なら抜けるべき毛が抜けない状態になっています。
出産後にホルモンレベルが元に戻ることでヘアサイクルも正常に戻り、短期間で大量の脱毛がおきます。この脱毛は始まって2~3ヶ月で収まります。ヘアサイクルが正常に戻るための脱毛なので脱毛に対するキャピキシルの効果はありませんが、より良い発毛を手助けする効果はあります。
6.副作用について
キャピキシルは植物由来の成分なので、深刻な副作用は報告されていません。ただし、アレルギー体質の方は注意が必要です。稀にアレルギー症状が現れることがありますので、使用中に異常を感じた場合は速やかに医師に相談しましょう。
また、植物由来成分といっても過剰摂取によるリスクはあります(過剰症)。副作用ではありませんがキャピキシルを使用開始すると抜け毛が増えたと感じる場合があります。これは初期脱毛とよばれるもので、新毛生成が起こるために発生します。痩せて弱った毛根がたくましい髪を生成するための大切な工程で、使用開始 1~2週間頃から1~2か月ほど続く場合があります。
キャピキシルは植物成分由来なので、副反応は少ないですが、初期脱毛の可能性があることを理解しておくと良いでしょう 。
7.キャピキシルの効果的な使い方
〇必ず1日2回使う
常に有効濃度が頭皮で留まっていることはないので 、朝、晩の2回に分けて使うことで効果を長続きさせましょう。特に夜寝ている時は成長ホルモンが分泌され、髪を作る細胞の成長が活発な時です。シャンプー後の清潔な頭皮に塗るキャピキシルは最も重要になります。手間をかけずにキャピキシルを使うには夜にキャピキシルが高濃度配合されたシャンプー 、朝にローションの使用がおすすめです。
〇ミノキシジルとの併用
ミノキシジルとキャピキシルは互いにさようする箇所が違い、お互いに足りない部分を補うので、併用は特におススメです。
・ミノキシジルの効果
育毛成分として最も有名なのがミノキシジルでAGA治療にも用いられています。ミノキシジルの最大の特徴は血行促進による、毛母細胞の活性化です。ミノキシジルには血管拡張作用があるため、血行が良くなります。それによって充分な栄養が毛乳頭に届き、育毛効果があるのです。
・ミノキシジルとキャピキシルを併用した時に期待できる効果
脱毛の原因は、DHT(ジヒドトテストステロン)の働きにより生み出される脱毛因子による影響と 、血行不良による毛根の栄養不足です。キャピキシルはDHTの抑制効果があり、ミノキシジルは血行不良に効果があるため、この2つの併用は、育毛効果が期待できます。ミノキシジルによって血行が良くなることによって、キャピキシルが毛球へ運ばれやすくなるので併用することにより効果的に毛母細胞へ働きかけることができます。
〇キャピキシルが高濃度配合されているシャンプーを使う
近年キャピキシル配合のシャンプーも多く見られます。シャンプーの場合、洗い流してしまうため、頭皮に成分が浸透する量がどうしても少なく、効果も期待できないと思われがちですが、キャピキシルが高濃度配合されているシャンプーにおいてはキャピキシルの効果は十分に期待できます。
下図の実験データは18歳から65歳までの全身脱毛症23名(男女とも)に1.5%キャピキシルのシャンプーとスカルプセラピーコンディショナーを2日ごとの朝に3か月使用したものです。シャンプーを塗布してマッサージを施し、その後1分間放置して洗い流したあとコンディショナーを塗布、マッサージ後2~3分放置して洗い流します。
キャピキシルは洗い流す場合においても成長期の毛髪を増やし、休止期の毛髪を減少させることができます。
8.推奨量配合製品の証
上記の実験結果の様にキャピキシルの効果を高めるためには、キャピキシルが高濃度配合された製品を使わなければなりません。キャピキシルが高配合されているか確かめるにはキャピキシルを開発したメーカーから付与されるエンブレムが商品にあるかが目印です。
このエンブレムはキャピキシルを一定の基準濃度配合した商品にのみ付与されます。
9.まとめ
いかがでしたか。
キャピキシルはミノキシジルと比較される新しい成分です。ミノキシジルとは違い、ヘアサイクルや頭皮環境を整えるために様々な角度からアプローチするスカルプケア成分なので、ミノキシジルの副作用などが気にならないのであれば、ミノキシジルと併用することでより良い効果をもたらしてくれます。
キャピキシルは老若男女ともに使える安全な成分です。ただ発毛細胞が無くなっていたり、血行不良の場合は育毛効果が期待できません。キャピキシルに限らず、育毛剤などの効果が期待できるようになるには平均的に3か月~6か月かかるといわれています。個人差もありますが、自分には効果がないとすぐに諦めず、根気強く使用することが大切です。